| 立飲み人生劇場 |
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| 「中村屋酒店」の巻 | 愛知県名古屋市中村区太閤通り6-37 TEL 052-471-5052 |

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■50〜60歳代と思われるおじさん連が5〜6人、みんなが和気あいあいの雰囲気で、立ったり座り込んだりして飲んでいる。中村区は太閤通り6丁目交差点の角、「中村屋酒店」へお邪魔したのが午後6時ちょい前。立ち飲み屋さんのゴールデンタイムである。
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■早速、ビールをいただきながら、おじさんたちの話に耳を傾ける。誰かが「笑えよ!」とギャグっぽく言ったことから、「それは岡八郎だな」「奥目の八ちゃんな」。「岡八郎なら、『くっさ〜』だろう」と別の人が言うのを受けて、「そうそう。で、それを譲り受けたのが間寛平だがね」と勝手に話に加わっていったのが私。
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吉本の次は名古屋弁だ。「借金だらけ」か、それとも「借金まるけ」か。
だらけだ、まるけだ、でやりあっているところで、明快に答えてくれたのが店のおかみさん、多喜子さんだ。「返せる借金は借金だらけで、返せんようになると借金まるけ」とのこと。
『借金まるけで、一家で夜逃げ』って言うでしょう」
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「同じ名古屋弁でも、鳥居のあっちとこっちで違う」と、言い出したのが先のシノハラさんである。シノハラさんによれば、出身の稲葉地の言葉は、この中村屋のあるあたりとは違う。つまり中村公園の鳥居をはさんで、別々の名古屋弁を使うというもの。稲葉地は、むしろ西隣りの大治町と共通点が多いらしい。
「鳥居の右側は稲葉地で、左側は中村で出して作ったらしいなあ」と、シノハラさん。長いお付き合いなのだそうだ。
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「大阪からこっちィ来て、もうじき5年。この中村あたりは、出身地の尼崎に、よう似てますねん」と話してくれたのが、井之上さんだ。
実家は、JR尼崎駅前の由緒ある旅館で、そこの三男。長男は一と書いて、はじめ。次男が一一で、かずいち。井之上さんは一三で、いちぞお。
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■井之上さんによれば長兄の井之上一さんは、学生時代に立教大学で野球をやっており、あのナガシマさんの1年後輩。高校では、阪神の名ピッチャー村山実さんとも同級生だったとのこと。稼業の旅館を継いだが比較的早く亡くなり、今は兄嫁である奥さんが旅館を切り盛りしているという。
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| ■井之上さんの年齢を伺うと、昭和13年のうま年。
■「親父が明治39年の丙午(ひのえうま)で、ボクが昭和13年。息子が昭和41年の丙午(ひのえうま)。な。めずらしいでっしゃろ。一家に同じ干支が3匹おると、その家は栄えるといわれるけど、なんでか知らんけど、うちはこう(手を下降させるしぐさ)。親父にもらった財産も、ぜ〜んぶ遣ってしまいましたわ」
■「なんで名古屋へ?」の疑問がわいたので、その旨を率直に尋ねる。
■「愛人と逃げて来たんだが。なあ」と、多喜子さんから突っ込み。話を変えようと、「大阪へ電話すると、知らんうちに名古屋弁になってるんですわ。『お前、なに言うてんの?』って言われます〜」。
■と、「いやぁ、こっちのことやらね(と言って、小指を立てる)。いろいろありましてん…」とか言って言葉をにごしていた井之上さんだったが、いきなり直立不動の姿勢になり、兵隊さんが敬礼する仕草で、こう言い放った。
■「ハイ! 逃げられましたぁ!」
■仕事はボイラー関係で、リフト、アーク溶接、ガス溶接、玉掛け、クレーンなどの免許を持つほか、調理師免許もある。実家である旅館の横で「食堂やってたんです」。
■さまざまな縁に導かれて、今は名古屋で一人暮らすという井之上さん。話しするうちにも何度も携帯電話がかかってきて、「ハイ。ヨボセヨ(ハングル!?)」とか、「すいません。ママごめんね」とか言って、なかなかに楽しそうなシングルライフなのである。
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| ペン・カメラ/沖てる夫 絵/前田幸三 カメラ/高島誠次 |
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『いつか、横になるまで 体裁/四六版・172P・ソフトカバー 定価/本体価格1,300円 発効日/2003年9月25日 発行所/長征社 神戸市中央区北長狭通5-8-6 Tel&Fax 078(371)6491 ※沖てる夫(おき・てるお) 1951年愛知県生まれ。名古屋市在住 詩人、自称「酒飲み文筆家」。 作品にはブルーズバンド「憂歌団」のために書いた「おそうじオバチャン」「10ドルの恋」ほか、最近、河合塾のCMソングとなっている「嫌んなった」など多数。「立飲み」という正統派酒飲みたちの実態をあますところなく記録・保存し、後世へ伝えるために1998年から取材をつづけ、このたび本書にまとめた。 |
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