立飲み人生劇場 

立飲み人生劇場 その92


重量物の会長あり、犯人逮捕の会長あり。そして「夢の2億円」の使い道は?

名古屋競馬場内
「伊藤店」
の巻
愛知県名古屋市港区泰明町1丁目1
TEL 052-661-9791


立飲み人生劇場イラスト、山忠商店。その93
もっと大きなイラストはここをクリック


「正月だし、競馬でも行くか」ってんで、名古屋競馬場で取材かたがた運だめし!の企画を立てた。と、話だけ聞くと、なかなかうまいことやってるじゃないのと思われそうだが、やっぱり取材となると大変ですわ。人の話を聞くのはいいんだが、まず、そのためのシチュエーションというヤツがある。いきなり知らない人に、「どう?今日の調子は」とにじり寄っていくわけにもいかないし、ねえ…。
 
取材に出かけたのは、まだ松のうち。その日も時折、霙(みぞれ)がまじる寒い寒い日のことでありました。昼の12時、絵描きの前田氏と入場ゲートで待ち合わせ。今回はゲストも2名。全員、競馬場は初めてと言う。ならばということで、まずは場内を巡る。
  

帽子をかぶっているのが諏訪会長。右が山忠商店のおかみさんで、おひげの人が西村さん
場内の架設テントの下では二胡と琴の合奏中  
 おや? あそこのテント前に、ぱらぱらと人だかりが。ほう、チャイナ服のネエさんが二人、二胡と琴で中島みゆきの『地上の星』を合奏中。寒いよね。ちょいと眺めてから、スタンドへ。馬場では4レース目が始まっており、2-4-7の大きなヤツが出たらしい。3着の馬は転倒して、足の骨折っちゃったみたいだ。「可愛そうに…」とか言いながら、次レースの出走馬を見にパドックへ。普通であれば、ここパドックで新聞と見比べながら、「よし、決めた」とか「う〜ん、迷うところだな…」とか言いながら馬券を買いに行くところだが、今日は違う。全然違う。
 
  前田氏、ゲストの2名も含め、「一体、いつ飲みに行くんだ」「どこの店へ連れていってくれるんだ」「入るんなら、さっさと入ろうよ」の様子。つまり、花より団子ならぬ、馬より酒。それではということで、場内にずらりと並んだ飲食店へと向かう。
  

最近シルバーの仕事も始めて、「若返ったような気持ちだわ」と、防犯協会会長の野田さん
  伊藤店の外観。カレーライス、中華そばなどのメニューが大書されている
 なんだか名古屋競馬場のご案内みたいだが、ここから先は店にじっくりと腰を落ちつけて飲むことになる。選んだ店が「伊藤店」。ゲートをくぐって左側、トイレから2〜3軒目の店だ。奥に進むと、70〜80歳くらいのおばあさんが一人。なんだか荷物をいっぱい持って陣取っている。まるで駅の待合室。ここ、ほんとに競馬場?てな風情だったが、ほどなくして毛糸帽子をかぶったおじさんがやってきた。どうやら二人は母子の様子。早速、声をかけた。
 
 「けいりんでもボートでも、いつも一緒に行くよ。今日は一宮けいりん行こうかと思ったけど、一宮は名古屋より寒いで、ほんだでこっち来た」と息子さん。写真を撮らせてと頼むと、おばあさん、後ろを向いちゃった。
 
 「拾った金届けずに自分の懐入れちゃうで、写真はいかんと」と息子さん絶妙のフォロー。あわただしくラーメンをかき込んで、出ていった。そう言えばこちらはカップ酒、ビールと飲み進んでいるが、あの母子は、酒は飲んでなかった。北区は上飯田の人とのことだ。
 
 入り口近くに陣取っては、店内テレビで競馬観戦のおじさんたちに聞く。南区の塗装屋の長瀬さんと元車掌の後藤さん、そしてもう一人は「名前は、まあええ」の三人だ。
 

帽子をかぶっているのが諏訪会長。右が山忠商店のおかみさんで、おひげの人が西村さん
常連の二人。右が長瀬さんで左が後藤さん  
 「今日は全然だめ。今のところ6万の赤字だあ」「負けてばっかりだわ」と長瀬さん。でも「昨日は7つ当ててプラス3万」だったとか。つまりは毎日、ここ名古屋競馬場へご出勤。「今日はいかんわ、目が読めえせんも」。
 
 確かに荒れた展開のようで、先ほどのレースも3連単で11万円がついたらしい。本命党を自認する長瀬さん、今日の調子はイマイチだが元気だけはいい。
 

カウンターを囲んで、いろんな人たちがいろんな話題で飲む
  正月とあってスタンドもまずまずの人出。しかし寒い
 「どんこ(名古屋競馬場の通称)では、年間300万円は負けとるな。小遣いが15万から20万円ある時は来る。5万では、まずこん(来ない)。いつも大体、負けとる。だけど好きだから来る。ギャンブルは、今でこそある金(自分の金)でやっとるが、昔は借金してまでやった。もう無茶苦茶やってきとるでオレは。若いころは大阪におったし、別のところにも1年間くらい入っとった。仕事も10いくつ変えてきとる。最終的には塗装屋になったけど、今のオレの趣味は、ビール飲むことと競馬に負けることだけ」
 
 馬が大好き。昔は電車の車掌をやっていたけど、今は清掃の仕事に就いているというのが枇杷島の後藤さんだ。
 

カウンターを囲んで、いろんな人たちがいろんな話題で飲む
新年のあいさつ看板がかかっていた入場ゲート  
「今はシンザン記念を勉強しとる」と言うが、この“勉強しとる”というフレーズが、なんとも後藤さんの人柄を表しているようだ。まじめに競馬に取り組んでいる様子に好感を持った。
 
指先で5センチくらいの幅を作って、「このくらいは負けとるな」とニヤリと笑うのが、「名前はまあええ」さんだ。先の長瀬さんが、「オレは家2軒つぶしたで」と言うのを受けて、「オレなんか10軒はつぶしとる」と、豪気だ。三人は「伊藤店」の常連さんらしく、先ほどからくるくると立ち働いている美人店員のナカシマさんなんかとも、実に親しそうである。
 

カウンターを囲んで、いろんな人たちがいろんな話題で飲む
  照れながらも撮影に応じてくれたナカシマさん。もう8年目のベテランさんだ
ここ名古屋競馬をはじめ、地方競馬の存続を巡っては中央競馬との関係性も含めいろいろと取りざたされている。きちんとした再建策はもちろん、きちんと飲める(じゃなくて楽しめる)環境の維持と存続を、強く希望したいところだ。
 
立ち飲みメモ
ビール大ビン1本、酒1杯、串かつ2本で1050円が私。前田氏はビール大ビン2本で1000円。その後あおなみ線でJR「名古屋」駅へ移動。以前、掲載した駅ホームにある100均の立ち飲み店へ行くが、「去年の10月から変わった」(店の人)らしく、100均以上の値段になっていた。二人でビール(ジョッキ)1杯と酒3杯、ハムエッグと豆腐1個で1200円の新年会を挙行した。
 
ペン・カメラ/沖てる夫 絵/前田幸三



いつか、横になるまで 立飲み人生劇場ナゴヤ篇 著者/沖てる夫
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いつか、横になるまで
       立飲み人生劇場ナゴヤ篇

著者/沖てる夫
体裁/四六版・172P・ソフトカバー
定価/本体価格1,300円
発効日/2003年9月25日
発行所/長征社 神戸市中央区北長狭通5-8-6
    Tel&Fax 078(371)6491

※沖てる夫(おき・てるお)
1951年愛知県生まれ。名古屋市在住
詩人、自称「酒飲み文筆家」。
作品にはブルーズバンド「憂歌団」のために書いた「おそうじオバチャン」「10ドルの恋」ほか、最近、河合塾のCMソングとなっている「嫌んなった」など多数。「立飲み」という正統派酒飲みたちの実態をあますところなく記録・保存し、後世へ伝えるために1998年から取材をつづけ、このたび本書にまとめた。

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●編集室盛り合わせ(2003年9月号/50号)
“酒屋の立ち飲みを、モノクロ写真でご紹介(その壱/立ち飲み屋さん入門)”


●編集室盛り合わせ(2003年10月号/51号)
“おかしな本があったもんだわ”

●書評はここをクリックして下さい。

●「月刊いーち」の“沖てる夫独占インタビュー”記事はここをクリックして下さい。

また、今月号の「おとくね情報」の中でこの『いつか、横になるまで 立飲み人生劇場ナゴヤ篇』の本を抽選にてプレゼント致します。奮ってご応募して下さい。待ってますよ。
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